介護DBを用いた看取りの研究

研究の概要
わたしたちは、どこで最期を迎えているのか
生命の延伸は近代医療の主要な目標であり、医療技術は寿命の延伸や死亡率の低減を指標として発展してきました。日本は1961年の皆保険制度確立以降、医療へのアクセスが保障され、世界最高水準の平均寿命を達成しました。しかしその過程で、看取りは地域社会から医療機関へと大きく移行してきました。

日本における死亡場所の長期推移を見ると、2000年代までは8割を超える方が病院や診療所で亡くなっていました。近年は割合が低下し、自宅や介護施設で亡くなる方も増えていますが、実数でみれば病院や診療所で亡くなる方は依然として高水準です。特に85歳以上では、現在も6割以上が医療機関で最期を迎えています。つまり、看取りの場は多様化しつつも、人生の最終段階が医療機関に強く依存する構造は継続しているのです。

この構造のもとで、死は主として個別の医療課題として扱われ、専門職主導の意思決定の中で再生産されてきた側面もあります。一方で、2018年には「老衰」が脳血管疾患を抜いて死因第3位となり、2024年には全体の12.9%を占めるまでになりました。医療機関外での死亡の増加は、人生最終段階における医療的ニーズのあり方が変化しつつある可能性も示唆しています。
在宅介護は「理想」なのか?
地域在住の要介護高齢者の家族介護に関する研究では、在宅介護が一義的に「望ましい選択」として肯定されているわけではないことが示されています。人工栄養の導入は状態を安定させる一方で、介護期間を長引かせることがあります。また、世帯規模の縮小や家族機能の低下により、介護者自身の生活や健康が脅かされることも少なくありません。 介護者は「終わりなき介護」に向き合いながら、介護量や関与の仕方を再定義し、自らの時間や居場所を確保することで対応してきました。ここには、在宅という場が必ずしも安定した「home」であるとは限らない現実があります。
看取りは、誰にとっても他人事ではない
超高齢・多死社会において、人生の最終段階は誰もが当事者となりうる問題です。したがって、死を医療の内部だけに閉じるのではなく、社会的・生活的な文脈の中で捉え直す必要があります。死の過程もまた、尊厳や生活の質という観点からみれば、広い意味での健康課題であり、地域社会や市民が関与しうる領域だと考えることができます。
「看取りの再社会化」を目指して
現在、私たちは介護保険レセプト等のビッグデータを用いて、高齢終末期の在宅療養期間やサービス利用の実態を分析しています。こうした実証的なデータと、市民の皆さんの「社会的な想像力」を分かち合うことで、誰もが自らの最期を理解し、語り合える基盤を作りたいと考えています。

そのうえで、単なる療養の「場」としての在宅ではなく、「その人らしくいられる居心地のよい居場所=home」を生み出す実践とは何かを問い直し、看取りの再社会化の可能性について考えていきたいと思っています。
代表 伊藤美樹子
ご意見・ご感想のお願い
この研究や内容について、ご感想やご意見がありましたらぜひお寄せください。
皆さまの声は、今後の学術的な研究の推進や情報発信の参考にさせていただきたく存じます。
(この研究は、科学研究費助成事業 基盤研究B 課題番号 21H03162 、 25K02852 の助成を受けたものです。)

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